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書き仕事のかたわらで綴る、上田真之介オフィシャルブログ。(短縮アドレスはw.kbst.net)←URL冒頭のwはひとつです
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2013-11-15

懐かしの交通案内社時刻表 <序>

いつものように時刻表を買って、「ふんふんふふふ~ん♪」と陽気に眺めていた私の手が止まった。
その記事に目が釘付けになった。

 
 
巻頭近くにあった記事をそのまま抜き出してみる。



   =  =  =  =  =  =

 平素は弊社発行の時刻表をご利用いただきましてありがとうございます。
 本誌「ポケット全国時刻表」「日本時刻表」は、いま皆様がお手にされている平成16年1月号をもちまして最終号とさせていただきます。
 長引く不況による売り上げ低迷に加え、コンピューターなどの情報機器の急速な発達によりお客様の紙媒体離れが進み、さらに近年のJR各社の度重なるダイヤ改正による制作費用の高騰が追い撃ちをかけ、これ以上の時刻表の発行の継続が困難な状況に陥りました。
 半世紀以上の歴史を持つ「ポケット全国時刻表」「日本時刻表」を廃刊とするのは誠に遺憾ではございますが、一定の役割は果たしたものと思っております。
 小型・中型時刻表として、全国津々浦々まで連れ歩いていただけたものと思います。そんな旅の思い出とともに、心のどこかに仕舞っていただけたら望外の喜びです。
 お客様ならびに関係者の皆様のこれまでのご芳情に対し、社員一同、心より御礼申し上げます。
   平成15年12月20日
   株式会社 交通案内社

   =  =  =  =  =  =



よく買っていたのが、文中にある「ポケット全国時刻表」だった。
黄色い背表紙の時刻表。昭和25年(1950年)に生まれ、通巻664号目、平成15年(2003年)の暮れに店頭に並んだ平成16年(2004年)1月号が最後の発行となった。

ポケット全国時刻表」は文庫本サイズの小型でありながらJR全線と主要私鉄、航路が載っていて、大判時刻表にも負けないくらいの充実ぶり。中型の「日本時刻表」とともにまさに全国津々浦々、鉄道ファンが持ち歩いていた時刻表の一つだ。

充実した内容ゆえに机上で旅をプランするのも楽しい。しかも、“載せ方”にも編集者の粋を感じることができた。


最後の発行となった2004年の1月号▲


ここでいう「粋」というのは、編集者は本当に鉄道旅が好きなんだろうな~と、そう感心するようなもの。時刻という数字の羅列なのだが、ぬくもりが伝わってくるのだ。旅情豊かな時刻表と言ってもいいかもしれない。
(ちょっとよく分からないかもしれないが…)

 
小型の時刻表というのは、紙幅の都合上、どうしても割愛しなければならないことが出てくる。
路線の載せ方にも工夫がいるし、いくつかの駅を省いたり、着発両方の時刻を掲載する駅をごく一部の主要駅に絞り込んだりする必要も出てくる。

現行時刻表で最小サイズは交通新聞社の「小型全国時刻表」だが、これと比較すると、小型版として編集する際の編集者の粋の部分が浮かび上がる。

 
たとえば時刻表の掲載順だ。

 
廃刊の「ポケット全国時刻表」は、
冒頭から、
 東海道線(東京~浜松)
    ↓
 東海道線(浜松~米原)
    ↓
 東海道・山陽(米原~姫路・網干)
    ↓
 山陽線(姫路~広島)
    ↓
 山陽線(広島~下関・門司)
という順番で、東海道線・山陽線を載せた後、各地方の路線へとページが移っていく。

この載せ方を見ただけで、鉄道好きならば色めき立つと思う。

まずはなんといっても、
 鉄道というものは誰がなんと言おうと、
  門 司 ←→ 東 京  な の だ ょ !
という、頑固な意地が感じられる。
この大動脈を差し置いて鉄道は語れないというものだ。

もっとも旅の供としての実用性も高く、「青春18きっぷ(※JRの普通・快速列車乗り放題きっぷ)で東西に移動する者にとってこの配置ほど便利なものはない。
便数が少なく旅のボトルネックとも言える岡山~姫路間を探すのも、雪に遭うことの多い関ヶ原を抜ける部分を探すのも、あちこち繰りまくる必要がないのだ。

  
では、現代のものはどうなったのか。

交通新聞社版をみてみると、

もちろん冒頭は東海道線の東京からなのだが
 東海道線(東京~熱海
と、熱海までしか載っていない。
そして、その次のページにあるのは
 伊東線(熱海~伊豆急下田)

ああ・・・確かに、関東の人はこのルートのほうが...ってそうなのか。そうなのか?

で、熱海から先、浜松方面はというと、
70ページ近く後ろにいって、
 東海道線(熱海~浜松)
があり、細かく区切られているのが分かる。

その後ろに
 東海道線(浜松~米原)が、
御殿場線とともに載っている。

この浜松~米原が182ページからで、その続きがまた飛ぶ
320ページにようやく登場するのが、
 東海道・山陽(米原~岡山)

さて、ここで問題が発生する。
廃刊となった交通案内社の「ポケット全国時刻表」では、主要駅たる京都、大阪、姫路駅で着発両方の時刻が書かれていたが、なんと交通新聞社のほうでは、ネックとなっている姫路駅で発時刻しか書かれておらず、さらには大阪もふつうの駅の扱い。
写真では岡山~広島の区間を抜き出したが、「ポケット全国時刻表」では倉敷、福山、三原の各駅も着発掲載だったものが、交通新聞社の時刻表では発時刻のみの掲載となってしまった。

使いづらい。いつ着くのかが分からないと、乗り換えにどのくらいの余裕があるかが当然分からない。あと、どうでもいいことのようでいてそうでもないのが、ホームの自販機やキオスクまでダッシュできるかどうか。2分や3分の停車時間でも、「青春18きっぷ」の旅なら貴重なブレイクタイムだ。
(まぁ、もちろんネットで調べればいいのだけれども...)

このあたり、翻って考えれば「ポケット全国時刻表」は大半の主要駅をきちんと着発掲載していたので、編集者の努力を垣間見ることにもなる。


さて、そこからさらにページを繰り
398ページからようやく
 山陽線(岡山~岩国)
 山陽線(岩国~下関・小倉)
となっていく。

 
もう一度、並べてみると

交通案内社「ポケット全国時刻表」:
 東海道線(東京~浜松)
 東海道線(浜松~米原)
 東海道・山陽(米原~姫路・網干)
 山陽線(姫路~広島)
 山陽線(広島~下関・門司)

交通新聞社「小型全国時刻表」
 東海道線(東京~熱海)
 伊東線
   |ほか他線いろいろ
 八高線・川越線
 東海道線(熱海~浜松)
 東海道線(浜松~米原)
   |他線
 東海道・山陽(米原~岡山)
   |他線
 山陽線(岡山~岩国)
 山陽線(岩国~下関・小倉)

 

交通新聞社の編集者に一度、両方の時刻表を持たせて「青春18きっぷ」で旅に出させたい気分に陥る。

もちろん各都市圏の利用者にユーザー層を絞り込んだならばこういう載せ方のほうがいいのだろうけれど、そこには合理性ばかりが見えて「旅情」を感じることができない

 
まぁ、今や、ごく普通の電車・汽車・列車に乗ってその過程を楽しみ、うら淋しい駅に風情を見出すような旅はメーンストリームじゃないということなのだろう。
私には食指の動かない観光列車や豪華列車が闊歩する時代だ。時刻表を片手に見知らぬまち、見知らぬ田舎へ、そこに息づいてきた列車に揺られて赴くといった旅人は、本人が意識していないにもかかわらずマイノリティになり、マニアな位置付けになった。

僕ぁ残念っすょ。


・・・。まぁそういうわけで、存分に「旅情」を感じることのできた10年前の「ポケット全国時刻表 2004 1月号」(通巻664号)を読み返しながら、在りし日の机上鉄道旅を振り返ってみたいと思う。

十年一昔。「楓」駅など、廃駅、廃線も多々...▲

次回へつづく

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